ねこみぞ

 道のわきにある みぞから ねこが出てくるのを 見たことがある? みぞにはフタがはまっていたり、 雨の日には 水が流れていたりするけれど、 ねこたちは体が小さくて やわらかいから 自ゆう自ざいに出たり入ったり、 雨の日にはすいーっと泳いだりして、 町の中をじゅうおうむじんに かけまわっている。
 みぞが町じゅうに はりめぐらされているおかげで ともだちに会いに行くのも かんたんだし、 何かこわいことがあった時には すぐにかくれられるので とても安心。こわいことっていうのは ちかくで大きな音がなったり、 車や人間においかけられたりすること。 だから ねこはいつも 耳をピンとそばだてて こわい気配をさがしている。
 人間たちが入れないような みぞのおくには ねこだけのひみつきちがあって、 みんながいつもしているように ごはんを食べたり、 テレビを見たり、 べんきょうしたり、 夜になったら いびきをかきながら ねむったりしている。 人間にかわれている ねことはちがって 何から何まで自分でやらないといけないから たいへんだけど、 ここでの暮らしを気に入っているねこも けっこういるみたい。 なんたって みぞの中を歩けば どこまでも行けるのだから。 せまいへやのなかに とじこめられているよりも ワクワクするんだろうね。
 でも 中には みぞのおくから出てこないで ずっとテレビを見たり ごはんを食べてばかりいるねこもいて、 そういうねこは 自分でも気がつかないうちに まるまると太ってしまう。 そうして ごはんがなくなって おなかがすいたから ひさしぶりにどこかへ出かけようとしたところで はじめて体が大きくなりすぎて みぞから出られなくなっていることに 気がつくんだ。
 みぞの中はめいろみたいに入りくんでいて、 ベテランのねこでもときおり 道をまちがえてしまうことがある。 みぞから顔を出して あたりをキョロキョロとしているねこがいたら それは思っていたのとはちがう場所に出て、 困っているねこだろうね。 よっぽど大きなまちがえ方をしなければ そこまで遠くに出ることはないけど、 ふしぎなことに 道をまちがえたまま 戻ってこないねこもいる。 みぞの中には はりめぐらされた道とはちがう べつの世界につうじているヨコ穴や 落ちたら最後 ねこのジャンプ力でも のぼってこられないタテ穴があいていることがあって、 ねこたちはみんな気をつけているんだ。 戻ってこなかったねこは もしかしたら その穴のおくふかくへ行ってしまったのかもしれないね。
 みぞと同じように 穴もあいている以上は どこかにつうじているはずで、 それは地球のうらがわかもしれないし、 ねこにとっても さらにひみつのきちかもしれない。 そこが ねこにとって ねこみぞ以上に かいてきなばしょだったとしたら だれひとりとして もどってこないのも うなずける。 おさかながいっぱいとれたり、 どれだけ太っても困らなかったり、 車や人間たちに追いかけられたりしないところ。 そこは ねこたちの らくえんなのかな?
 それでも ほとんどのねこは その日その日を気ままにすごすだけで まんぞくしているから そんなところがあったとしても われさきにと向かうことはないだろう。 ただ よっぽどいいところだと ひょうばんになったら さすがのねこもゆっくりと少なくなって、 わたしたちの気がつかないあいだに 町からねこは いなくなっているかもしれないね。
 それが ねこだけとも かぎらないけど。




7歳向けに書きました。